火の消えぬ台所
戦に出た男たちを送り出したあと、城下や村に残る女たちは、静かに火を守っていた。薪の爆ぜる音、煮える鍋、すすけた壁。どんな戦の最中でも、台所の火だけは絶やさなかった。外では槍が鳴り、内では湯が沸く。どちらも命をつなぐ戦だった。
戦場の裏にもうひとつの戦
待つことが戦
夫、息子、兄――皆が出征しても、女たちは泣かなかった。泣く暇があれば、畑を耕し、味噌を仕込み、子の寝顔を見守る。手紙も届かない。噂だけが風に乗る。「○○城が落ちた」「誰それが討たれた」。心は千々に乱れても、火を起こし、飯を炊く。それが、女の戦場だった 。
城を守る女たち
籠城戦では、女も城兵だった。水を運び、矢を作り、ときには石を投げ、火を放った。鳥取城の籠城では、城内に逃げ込んだ領民とともに女たちも飢えに苦しんだ。中には、男の甲冑を借りて戦場に立った者もいる。名は残らずとも、名もなき女の手が、何度も国をつなぎ止めた 。
死を見送り、生をつなぐ
戦が終わっても、戻らぬ者を待つ時間は続く。死者の衣を洗い、骨を拾い、その傍らで子どもを抱く。戦国の終わりをもたらしたのは、勝った男ではなく、生き延びた女たちだった。彼女たちが町を再び動かし、畑を起こし、米を炊いた。それが新しい平和の始まりだった。
戦わぬ者の勇気
女たちは戦わなかった――だが、耐えた。男たちが「戦の勇気」を持っていたなら、女たちは「暮らしの勇気」を持っていた。その勇気は、時代が変わっても受け継がれている。働き、育て、守るすべての手に、戦国の火がいまも宿る。彼女たちは、剣ではなく、火と水で国を支えた。沈黙の中にあったのは、祈りではなく覚悟だった。
なりさん待つ背中
戦の音より 強くあり

